球速に影響を与える身体的および 動作的要因の分析

 

1.緒言

野球において、
投手の球速は打者に対する
優位性を高める重要な要素であり、
試合の展開に大きな影響を与える。

 

これまでの研究では、
投手の身体的特徴や
筋力、投球動作のメカニクスが
球速に関連することが示されている。

 

長谷川の研究では、
身長や体重、筋量などの形態的要因が
球速に影響を及ぼすことが報告されている。 

 

また和田ほかの研究では、
体幹部の動作や筋力も
球速に関連することが示唆されている。 

 

しかし、若年層投手における
これらの要因の具体的な寄与度については、
未だ明確に解明されていない部分が
多く存在する。

 

本研究では、
若年層投手を対象に、
身体的および動作的特徴が
球速に与える影響を明らかにすることを目的とし、
相関分析および回帰分析を行う。

 

2.方法

BASEBALL ONEの
パーソナルレッスンに通っている選手
100名(小学5年生10歳～大学生22歳)で実施。

 

まず、選手の身長とIn Body470を使用して
体組成計データを取得。

 

選手から全力で投げられるといった自己申告後、
Rapsodo®︎を用いて、球速を測定。

 

同時にモーションキャプチャーシステムを用いて、
各種動作パラメータを取得。

 

測定したデータは、
1.並進速度
2.腕の速度
3.腕の最大加速度
4.肩最大外旋角度
5.最大外旋位置からリリースまでの距離
6.最大外旋位置からリリースまでの時間
7.ステップ幅
8.前足膝関節角度
9.胸郭角速度
の9項目。

 

その後、Enodeを使用し
垂直跳びの跳躍高を計測し
メディシンボールを使用し
チョップスローの速度を計測。

 

メディシンボールチョップスロー
(以下MBチョップスロー)は、
1kgのボールを両手で持ち、
ピッチングフォームのように投げていく。

 

3.結果

1.相関分析

相関分析の結果、
以下の特徴量が「球速」と高い相関を
持っていることがわかった。

●正の相関（高い順）
・MBチョップスロー: 相関係数 0.89
→この特徴量が最も球速と強い関係を持っている。

・身長: 相関係数 0.88
→身長が高い投手ほど球速が速い傾向がある。

・体重: 相関係数 0.88
→身長と体重の影響が大きい。

・腕の速度: 相関係数 0.83
→腕の振る速度も球速に強く関連。

・ステップ幅: 相関係数 0.77
→投球動作の幅広いステップが
   球速を向上させている可能性がある。

 

●中程度の相関
・垂直跳び: 相関係数 0.76
→筋力やパワーが
球速に寄与していると考えられる。

・腕の最大加速度: 相関係数 0.63
→加速のピークが球速に関係している。

・並進速度: 相関係数 0.62
→投手の移動速度が球速に影響。

 

 ●弱い相関  
・胸郭角速度: 相関係数 0.34
→胸郭の回転速度も一定の影響を持つが、
　他の特徴量ほどではない。

・肩外旋→リリース距離: 相関係数 0.30 

 

●負の相関
・肩外旋→リリース時間: 相関係数 -0.30
→リリースまでの時間が短いほど球速が速い。

 

2.回帰分析 

回帰モデルでは、
以下の特徴量が球速に対して
有意な寄与を示した。
・腕の最大加速度: 回帰係数 +0.40
・体重: 回帰係数 +0.14
・MBチョップスロー: 回帰係数 +0.09

4.結論・考察

本研究では、若年層投手における
球速に影響を与える要因として、
「メディシンボールスロー」や
「身長」「体重」「腕の速度」「ステップ幅」が
強い相関を示すことを明らかにした。

 

特に、腕の最大加速度が
最も高い回帰係数を示したことから、
腕の加速能力が
球速向上に重要であると考えられる。

 

これらの結果は、
既存の研究とも一致している。

 

蔭山ほかの研究では、
野球選手におけるメディシンボールを用いた
サイド投げおよびバック投げの飛距離と
投球速度の関係を調査した結果、
これらの測定項目が投球エネルギーと
関連していることが示唆されている。

 

さらに山下ほかの、
野球選手のステップ幅と
投球速度の関係を調査した研究では、
ステップ幅の身長比が
投球速度に影響を与える可能性が
示されている。

 

これらの知見を踏まえると、
投手のトレーニングにおいては、
筋力強化や動作改善に加えて、
身長や体重に応じた
適切なステップ幅の確保や、
腕の速度を向上させるトレーニングが
重要であると考えられる。

 

しかし、本研究は
サンプル数が限られているため、
結果の一般化には注意が必要である。

 

今後は、より多くの被験者を対象とした研究や、
他の身体的・動作的要因の検討を行うことで、
投手の球速向上に向けた
包括的な指導指針を確立することが求められる。

 

5.参考文献

1.長谷川 伸
投球速度の高い野球投手における四肢、体幹筋の形態的特性
https://kyukyo.repo.nii.ac.jp/record/360/files/kiyo9-1-6.pdf?utm_source=chatgpt.com

2.和田 直樹, 大塚 光雄, 山口 雄大, 福田 渉, 辻 孟彦, 古城 隆利, 河野 徳良,西山 哲成
野球投⼿における体幹部三次元的動作と球速の関係：個⼈間および個人内分析からのアプローチ
https://researchmap.jp/tsujitakehiko/published_papers/47041339/attachment_file.pdf?utm_source=chatgpt.com

3.蔭山 雅洋, 藤井 雅文, 鈴木 智晴, 前田 明
ポジション別における投球速度を規定する体力要因の検討
～中学生および高校生を対象としたフィールドテストを基に～
https://se4e2b17a7d2cd790.jimcontent.com/download/version/1597146141/module/11482760298/name/第5回大会報告集.pdf?utm_source=chatgpt.com

4.山下 耕平, 福永 哲夫
野球ピッチング動作におけるステップ幅の変化が投球動作に及ぼす影響
https://waseda.repo.nii.ac.jp/record/23674/files/074.pdf?utm_source=chatgpt.com