並進速度が腕の速度や球速に与える影響

 

1.緒言

野球における
投手のパフォーマンスを評価する際、
球速は極めて重要な指標となる。

 

これまでの研究では、
球速と下半身の動きの関係性が
注目されており、
特に下肢の地面反力や
股関節の回旋動作が
球速に与える影響が示唆されている。

 

島田ほか（2000）の研究では、
ピッチング動作における
体幹および下肢の役割を
バイオメカニクス的に分析し、
下肢の地面反力が投球動作において
重要な役割を果たすことを報告している。

 

また、宮西ほか（1996）の研究では、
投球動作におけるボール速度に対する
体幹および投球腕の貢献度を
3次元的に研究し、
体幹の動きが球速に
大きく寄与することを示している。

 

しかし、並進速度が
腕の速度や球速に
どのような影響を及ぼすか
については明確に解明されていない。

 

本研究では、
並進速度が腕の速度および
球速に与える影響を統計的に
検証することを目的とする。

 

2.方法

本施設のパーソナルレッスンに
通っている選手100名で実施。

 

選手から全力で
投げられるといった自己申告後、
Rapsodo®︎を用いて、球速を測定。

 

同時にモーションキャプチャー
システムを用いて、
各種動作パラメータを取得。

 

測定したデータは、
並進速度、腕の速度の2項目。

 

これらのデータを基に相関分析を行い、
次に回帰分析を実施して
並進速度が腕の速度や球速に与える影響を
統計的に検証した。

3.結果

1. 相関分析

並進速度と腕の速度、並進速度と
球速の間には正の相関が確認された。

具体的な相関係数は以下の通り。

 

正の相関（高い順）

・並進速度と腕の速度
相関係数 0.71（強い正の相関）

・並進速度と球速:
相関係数 0.62（中程度の正の相関）

 

2. 回帰分析

回帰分析の結果、
以下のことが明らかになった。

 

並進速度の向上による影響

並進速度が0.1 m/s向上した場合、
以下の影響が見られることが予測された。

・腕の速度
平均して0.46 m/s増加

・球速
平均して2.95 km/h増加

これらの結果は、
並進速度が腕の速度と球速の向上に
顕著な影響を与えることを示した。

特に、腕の速度の増加が
球速に大きく寄与する可能性を示唆していた。

 

 

4.結論・考察

本研究の結果、
並進速度は腕の速度と
球速に有意な正の影響を
与えることが明らかになった。

 

これは、下半身の動作が
投球速度に重要な役割を果たすとする
先行研究と一致している。

 

これまでの研究では、
球速向上における
下肢や体幹の役割が注目されていた。

 

島田ほか（2000）の研究では、
地面反力と股関節の回旋が
投球時のボール速度に及ぼす
影響を指摘し、
投球動作における
下半身の重要性を強調していた。

 

また、宮西ほか（1996）の研究では、
体幹の回旋速度がボールの加速に
大きく寄与することを示しており、
体幹と下肢の連動が
効率的な投球動作の鍵であると述べている。

 

並進速度が腕の速度および
球速に与える影響を
定量的に明らかにした。

 

特に、並進速度が
腕の速度と強い相関（相関係数0.71）を
持つことが確認され、
球速を直接向上させるための
重要な要因であることが示唆された。

 

この結果は、
従来の研究が示唆する体幹や
股関節の動きと並進速度が
密接に関連している可能性を示し、
新たな視点を提供するものである。

 

本研究は、従来の下半身や
体幹の動作に関する研究に
新たな視点を加え、
並進速度が腕の速度および
球速に与える重要な役割を
定量的に示した。

 

この成果は、投球動作の効率性を改善し、
投手のパフォーマンス向上に
貢献する具体的な指針を提供する。

 

特に、並進速度の向上が
腕の速度および球速に及ぼす影響を
明らかにした点は、
今後のトレーニングや指導法において
重要な示唆を与えるものである。

 

これらの課題に取り組むことで、
より高度なパフォーマンス向上のための
科学的基盤が築かれることが期待される。

 

5.参考文献

島田 一志, 阿江 通良, 藤井 範久, 結城 匡啓, 川村 卓
野球のピッチング動作における体幹および下肢の役割に関するバイオメカニクス的研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbse/4/1/4_2000_007/_pdf/-char/ja

宮西 智久
野球の投球動作のバイオメカニクス的研究一加速局面の上胴と投球腕の運動に着日して－
https://tsukuba.repo.nii.ac.jp/record/21168/files/1.pdf?utm_source=chatgpt.com